第七話『ママを叱る息子』
賑やかな音楽。シャワーを浴びる音。
ママ!!!今夜も出かけるの?もういい加減に止めたら・・・ねぇ、聞いてる!!!ねぇ!!!・・・
まったく、幾つだと思ってるの?鏡を見てご覧よ!!!・・・一生懸命化粧したって、歳は隠せないよ
・・・だってあんたの可愛い息子が、もう二十歳になるんだからね・・・20年か・・・
凄いよね・・・オレもビックリだよ、ママと20年も、こうして・・・ずっと・・・一緒にいるなんて・・・。
どっか頭のネジがはずれてて、能天気を絵に描いたような人と・・・ったく、
心配で見ていられないから、ホント・・・。
シャワーが止まる。水滴の落ちる音。
ママ、シャワー、ちゃんと止めて!!!まったくだらしないんだから・・・
どっちが子供だか、わかりゃしないよ・・・そんなだからいつも貧乏くじを引くんだよ。
大体、人が良すぎるんだよ、ママは・・・お祭り好きの見栄っ張り、お酒が大好きで、男好き。
しかも泣き虫の感激屋・・・
「人の喜ぶ顔を見るの大好き!!!幸せそうな顔を見ると嬉しくなっちゃう!!!
夢を売る商売って、なんて素敵なんでしょう!!!」
・・・まったく!自分の幸せは、どうしたの!!!・・・そりゃ、天職だとは思うよ、オレも・・・
ママの仕事はね・・・。
若い頃のママは本当に魅力的だった・・キラキラしてて、みんなが夢中になっちゃうのもわかったよ
・・・人が何を言おうと“御免あそばせ”って調子で、風切って歩いてた・・・でも・・・
もう若くないんだよ。ママ、本当にママを愛してくれる人見つけなくちゃ・・・
「ママはみんなのものなの!!!」
・・・あのね、そんなの誰のものでのないってことなんだよ・・・ね、ママ、聞いてる?
そりゃあ、今はまだチヤホヤしてくれてるよ、でも・・・ママ、怒らないで聞いてよ
・・・もうすぐママだっておばあちゃんになるんだ・・そしたら誰も見向きもしなくなる・・・
ママ、ママ・・・出かけるの?ママ・・・ちゃんと髪は乾かした?ねぇ、ママったら・・・
ドアが開いて、閉まる・・・靴音・・・
〈出かけたか〉・・・そう、ママ程バカな女はいない、そして可愛い女も・・・でも・・・
幸せになってほしいんだよ・・・ママ・・・。
もう、20年だよ・・・一度でいいから抱きしめてほしかった・・・一度でいいから思い出してほしかった
・・・ママ・・・今日は僕が死んだ日だよ・・・
ママ、僕がちゃんと生まれていたら・・・ママは違った人生を生きただろうね・・・
そう思うと・・・僕は・・・(泣きそうになるのを堪えて、無理やり笑顔を作り)
ママ・・・愛してるよ・・・ママ・・・
『毛皮のマリー』訳詞・津田誠
派手な馬車を乗りまわして 羽振りを利かせたミンクのマリー
落ちぶれた今も彼女は 古びたミンクの外套を
肩にかけて酔えばいつも 話し出すよ 昔を
誰でも皆 目を見張らせ 夢中にさせてた あの頃
派手な馬車を乗りまわして 羽振りを利かせたミンクのマリー
けれど一人寂しい 黄昏の涙
女の幸せをまだ 知らないマリーさ
甘い恋に見向きもせず 男を相手の取引で
今日はパリ 明日はモナコ やり手のマリーと謳われて
ただせわしく ミンク肩に 得意顔の口笛
春も秋もいつか過ぎて 思えば あれから20年
派手な馬車を乗りまわして 羽振りを利かせたミンクのマリー
真実の恋をして 悩んでみたいと 思うのさ
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