第五話『幸せな男』
暗い中、赤ちゃんの泣き声。明かりがぼんやり灯る。赤ちゃんを抱いた男が出てくる。
(泣き声を真似て)「アーン、アーン」ん、どうちたのかな?ほらほら、何を泣いてるんだぁ・・・
オムツは替えたし、ミルクも飲ませたし・・・なにがそんなに悲ちいんでちゅか・・ねぇ、
「ったく、もう!」でちゅよね、「何処行ったんだ、アイツは!!!」「パパが怒ったらスッゴク怖いんだから」
でちゅよねぇ・・・ちょっと言ったくらいで・・・なんであんなに・・・
「私だけの子供じゃないのよ!」「あなたなんか休みの日だけじゃないよ!」・・
(淀川長治を真似て)「コワイですねぇ、まぁくんのお母ちゃまは、ホント、ヒステリックなんですねぇ、
いやですねぇ」・・・まぁくんは、絶対、ママみたいな女と結婚ちてはダメだちゅよぉ、
これはよぉく覚えておくんでちゅよ。パパが君に教えてあげる最初の人生訓でちゅからねぇ。
赤ん坊の泣き声
ん、なに?あぁちょう、そんなことは、とっくに分かってたの。
ちょう、まぁくんはお利巧ちゃんでちゅものねぇ、パパに似て・・・よちよち・・・
(独り言)でも、ママと結婚したんだからパパは馬鹿か、そうだよなぁ・・・仕方なかったんでちゅよね、
ママのお腹にまぁくんが出来ちゃったからね・・・パパは、まだ結婚なんかしたくなかったでちゅよねぇ
・・・まだまだしたい事が一杯あったんでちゅ・・・パパのお友達は、みんなまだ独り身で、
青春を謳歌しているんだよね・・・(ため息をつき、そこにあるらしい鏡を見て)この歳で子持ちか
・・・カワイソ過ぎるよなぁ・・・・(赤ん坊の泣き声)泣かないでよ、泣きたいのはパパの方
なんだからさ・・・
べろべろばぁ・・・などして、赤ん坊をあやす・・・泣き止んでから
・・・パパはね、赤ちゃんなんかまだ欲しくなかったんだよ。でも、出来ちゃったからさ・・・
堕してくれって頼んだのに・・・あいつ泣くんだもの、ずっと泣き続けるんだもの・・・
それ見てたらさ、なんか、パパ、身体が引き裂かれるような感じになってさ・・・それで・・・
(ボソッと)出来ちゃった結婚・・・
結婚式は凄かったよ・・・ママの顔・・・こんな、お腹は・・・こんな。ウエディングドレスはなんと
13号・・・まぁくん、気をつけるんでちゅよ。女は魔物でちゅからね。可愛いのは最初だけ、
子供生んだ日にゃあ・・・鬼。
赤ん坊の泣き声
あぁ、ごめんごめん、パパが悪かった・・・。まぁくんを要らないって言った
わけじゃないんだよ。よちよち。泣いちゃ駄目でちゅ。パパはまぁくんが大ちゅきなんだから・・・
ほぅら、これはどうでちゅかぁ。(と、蝶々のおもちゃを取り出し)可愛いでちゅねぇ、蝶々でちゅよぅ、
ヒラヒラヒラ・・・ねぇ、まぁくんも大人になったら蝶々のようにお空を飛んで、
いろんな国に行きましょうね、ヒラヒラヒラって・・・
赤ん坊の笑い声
ハハハ・・・ちょうでちゅか、嬉しいでちゅか、ちょうちまちょうねぇ・・・パパも嬉しいでちゅよぉ
・・・ヒラヒラヒラ、ヒラヒラヒラ・・・しかし、君のママは何処でヒラヒラしてるんでちょうね・・・
『蝶々とり』
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