第四話『嘆く男』
男、帽子を取りながら入ってくる。疲れた様子。椅子に掛け、写真立てを手にする。
・・・タダイマ・・・今日も一日が終わったよ・・・(微かに笑いながら)
今日もね、ひどい一日だった・・・ごめんよ、また愚痴になっちゃう・・・
(怒りが込み上げ)何で、何でいつも僕なんだ!!いつも、いつも、いつも!!!・・・
(呼吸を整え) そりゃ、まだ仕事は上手く出来ないよ。言葉もよくわからないし、
一生懸命やってるんだけど・・・なかなかはかどらないんだ・・・
でも、僕は一生懸命なんだ、誰よりも頑張ってるんだ・・・君はわかってくれるよね
・・・今日ね、新人が入って来たんだ・・・ホラ・・いつも話すあのメガネをかけた奴、
毎日僕を苛める・・・アイツ・・・そいつの知り合いって人でね・・・僕の場所に
・・・(泣きそうになる)僕の場所・・・ハハハッ・・止めよう・・・そうだよね、
泣き虫の僕は嫌いだったよね・・・
そうそう、あの猫、元気になったよ。昨日は弱ってたからすごく心配したんだけど
・・・ミルクが良かったんだね・・・ホント良かった。ここで飼えるといいんだけど
・・・大家がね、猫嫌いなんだ・・酷いんだよ、この間なんかさ、
ホウキ持って追いかけ回してた。とてもここじゃ飼えないよ・・・
ミューは元気かい?・・相変わらず悪戯をして、君を困らせているんだろうな、ハハハッ・・・
(ふと黙る)・・・・つらいよ、帰りたい・・・君に逢いたい・・・(強く)家に帰りたい!!!僕らのあの家に!!!・・・
いくら働いても、ちっともお金が貯まらない。ここは何でも高いんだ、パンでもなんでも。
しかもまずい!!!君の焼いたあのパンが食べたい!!!・・・(泣きそう)
情けないよなぁ、頑張るって出てきたのにこんな泣き言・・・・・
そう、一生懸命頑張らなきゃ・・・働くんだ、明日も明後日も・・あの薄暗い工場で、
油にまみれて・・・アイツの意地悪にも負けずに
・・・どうしてだろう?アイツは僕にだけ辛く当たるんだ・・・まったく理不尽に・・・
(沈黙)・・・街がね、みんな灰色に見えるんだ、風景がさ、僕の心が死んでしまったのかな・・・
空も、星も、みんな・・・ね、どうしちゃったんだろう、
キレイなものをキレイって感じないなんて人間じゃないよね・・・
きっと、ここには人間らしい生活がないんだよ、きれいな言葉、きれいな音楽、
すてきな笑顔、温かい心・・・今までいつも僕の回りに空気のようにあったから・・・
それがどんなに大切なものかって事がわからなかったんだ・・・
そうだ!!!君に手紙を書こう!!!綺麗な詩のような手紙を・・・
綺麗なメロディーが聴こえて来るような、そんな手紙を・・僕の心が死んでしまわないように、
書こう・・君への思いを全部込めた。
『サンフランシスコの6枚の枯葉』訳詞・高野圭吾
前略 君は元気ですか 僕はやっと今日着いたよ
まずは送る この枯葉を 街で拾った6枚の枯葉
今僕のいる このサンフランシスコ 枯葉の季節 あちらこちら
見歩くたび いない君に 話し掛けては独り言
船の中では君のことが ただ懐かしくて 苦しんだよ
旅の途中で見た素敵な物をみんな 君にあげる
イルカを二頭 ついでにクジラ 甲板に落ちた星のかけら
君にあげよう メキシコの月 キリマンジャロの雪も風も
青いバラも 凍るダイア 波の真珠も 台風の目も
君がいなくて淋しい 君がいなくて またも二日酔い
君にあげよう 世界中を 今はこれが全てだけれど
たった6枚の枯葉だけれど 僕の思い みんな込めた
「この枯葉をつないで 君と僕をつなぐ鎖にして下さい
一日も早く仕事を終え 君のもとへ帰ります」
一万キロも離れてるけど 君に送る 僕のジュテーム
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